tome VII - 随筆・紀行2


 

山と私

(1986)

橋本龍太郎(特別会員)


私がはじめてヒマラヤに近づいたのは昭和48年10月のことだった。

第二次RCCの計画したエベレスト南壁登山隊の総指揮という恰好良い資格をもらい、参加した時からである。当 初は、何処かでエベレストを遠望しながら日本酒を飲みたい、という極単純な理由で御引き受けしたものが、思ったよりスラスラとクンブ氷河に入り、5350メートルのベースキャンプまで何という事もなく行けたものだから、以来すっかり調子づき、チャンスをとらえては海外での山行にもぐり込んで今日に至っている。

ただしこの時は、キャラバン中は我慢して手をつけずにかつぎ上げた日本酒を、ベースに入った夜早速飲んで完全に飲み過ぎ、翌日一杯猛烈な二目酔いに悩まされるという大ヘマもしでかした。

この時、南壁からの直登は成功せず、従来ルートからのモンスーン明けのエベレスト初登頂に目標を切り替え、これには成功したものの、帰途予定外のビバークを強いられ、加藤(保)君が手足の指を凍傷で失う事態をまねいた。

欧米諸国は週休二日で、出張しても土曜日、日曜日は仕事が出来ない。

カナダ出張の折には週末スキーを楽しみ、ジュネーブ出張の折にはアイガーの裾をうろついて来た。本年九月イギリス政府から招かれた折には、イギリス側が気をきかせて、日程の中にウェールズでボーイスカウト達と岩登りを楽しめるようにしてくれた。

ただ国会開会中はなかなかうまく脱走が出来ない。

55年秋、日本山岳会東海支部が計画したガウリシャンカール隊にもぐりこもうとした時には、カトマンズを出発する直前、東京から電話がかかり、無念の涙をのみながら帰国した。

日本山岳会創立80周年記念事業として計画されたカンチェンジュンガ縦走については最初から関与し、実行委員会の責任者として、同時に登山隊の総隊長としてベース入りを楽しみにしていた。

ところがこれも丁度国会の真最中、ツェラムまで強引にヘリコプターを飛ばし、ヤルンカルカは越したものの、実動日数三日間では如何にもならず、この時も涙をのまされた。

ことにこの時は、8000メートル峰縦走と同時に、8000メートルからハングライダーを飛ばす計画をも並行して進めており、このハングライダー計画の是非をめぐって近藤隆治ハゲラマン先輩と論争していただけに、自分の目で成功の瞬間を本当に見たかった。結果的には両計画とも不完全ながら成功し、責任者として本当にホッとしたものの、もう少し上まで私も行きたかったとの気持ちは今だに残っている。

この夏、パミール高原をトレッキングする事が出来た。これも、京大・同志社と中国登山協会合同で組織したナムナニ峰登山陵に、便乗させてもらったおかげである。

タクラマカン砂漠のスケールは私の想像を遥かに越えるものだった。それだけに天山山脈にさしかかり、雪どけの流れに沿った僅かな緑も、その草を追って移動する羊の群も、いとおしい可憐な姿に私には見えた。3000メートルを遥かに越えて水をたたえるカラクリ湖、チベットとのさかいとなっているアカズ峠の荒れ果てた風物、いずれも印象深い光景だった。人間のはかなさを感じさせた、と言っても良いかも知れない。

このパミール高原のトレッキングから、正確には夜ごとの日中酒合戦の中から、中国登山協会関係者との間に、山と酒を通じての友情が生まれた。そして酔った同志の夢物語から新たなプロジェクトも育ちはじめた。今、日本、中国、ネパールの三国の共同登山隊で、昭和六三年、エベレストの頂上をネパール側とチベット側から一度に登り、ネパール側から登った者はチベット側に下山、チベット側からの隊員はネパール側に下るという計画が進みはじめた。

中国側は史占春登山協会主任、ネパール側はクマル・カドガ殿下が責任者、日本側の責任者は私になりそうだが、責任者になる、ならぬはともかく、仲間には本当に入れてもらいたい。

カンチ縦走の折、ツェラムの天幕の中で、若い隊員から「オジンあつかい」されて大分くさったが、鹿野君や重広君が現役として活躍しておられるのを見、自分を顧みる時、矢張り俺はロートルだわいと、ついにあきらめた昨今だが、何才になっても山への夢だけは失いたくないと、しみじみ思う今日此頃でもある。

(昭和60年11月記)



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