堀口さん遭難




「自然を愛し 山を愛する」

元山岳部長 第一解剖学 堀口 正治 
(岩手医大山岳部誌 渓稜第12号=1996年7月27日より)


 まずは告白しなければならない。ほぼ30年ほど前、私はつかれたように山に登っていた。年間に100日を超えるほど山に入っていたが、いま考えると内容の乏しい山登りだった。

 自然を愛し、山を愛していたとは到底思えない。余った食料は捨てていたし、焚き火をするために平気で木を切ったし、たばこの吸殻を平気で捨てていたし(もちろん火の後始末については配慮していたが)、残飯の後始末もいいかげんであった。適当な場所と考えればどこにでも幕営したし、そのために木を切ったり植物を押しつぶしたりしても何とも思わなかった。いまになって大いに反省している。

 大学に残って研究生活を送るようになってしばらくは、ほとんんど山に行かなかった。10年ほど前に岩手に来て山岳部の学生諸君に誘われて山登りを始めて驚いたのは、第一に装備の進歩であったが、その次には自然を大事にする思想が高まっていることであった。

 余った食料を持ち帰るのは当然として、残飯やゴミも持ち帰る。キジ撃ちの後始末に使った紙まで持ち帰る人がいたのには驚いた。冬の山行では、帰りのほうが荷物が多いくらいに感じられた。このように山登りをする人の自然保護思想は、私が若い頃に比べて大変向上した。素晴らしいことである。


 一方でアウトドア志向の人の中に、自然を愛する思想がいまだに極めて低いレベルにある人が少なくないことに驚いている。最近流行のオフロード車で砂浜、河原、草原、森に乗り込んでは、植物はもちろん、小動物までも押しつぶして平気な顔をしている。

 害は若干少ないとはいえ、オフロードバイクも同罪である。バイクは騒音を出す点でも有罪である。スノーモービルも困った乗り物である。雪の上を走るので植物に与える害は少ないが、雪が少ない稜線を走る際に植物を痛める可能性が高いほか、騒音が動物に与える影響は少なくないであろう。残雪期に登山をしていてスノーモービルに出会ったりすると、ひっくり返してやりたくなる。

 さらに自転車も最近、マウンテンバイクと呼ばれるオフロードのタイプが流行であるが、これも野山を走れば植物を傷つけることは疑いなしである。

 ここに至って私は最近、足で歩くことすらも自然を傷つけていると考えるようになり、自然を遠くから眺めて想像して楽しむのが最高の自然を愛する態度であると考えるに至った。実をいえばこれは、私があまり山に行かない理由にしているに過ぎないのであり、もちろん極論である。

 しかし、自然を楽しむことは、わずかではあっても自然を傷つけることである。自然を楽しむには、なるべく自然を傷つけないやり方、すなわち自分の足で歩くこと(スキーくらいは許されるが)でやらなくてはいけないと強く思う。■



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